大谷翔平選手と睡眠

 

2021年11月19日に満票でア・リーグMVPに選出された大谷翔平投手(27)が睡眠に関して語っている語録を集めてみました。大谷選手が睡眠を重要視していることがよくわかります。

 「小学生のころは毎日夜9時から朝7時まで寝ていた。昼寝もしますし、半日くらい寝ていたかもしれない」 (2021年7月のアシックスジャパンによる動画インタビュー)

 「一番大事に考えているのは、寝ることです。もともとシーズン中はいっぱい寝るようにしてきましたけど、今年はとくにいっぱい寝るようにしていますね」「ナイターデー(ナイトゲームの翌日がデーゲーム)なら6、7時間寝られればいいほうかなという感じですけど、ナイターナイターだったら、10時間から12時間くらいは寝ています」  「寝ていいと言われたら、いくらでも寝られます」 (「Number」9月24日号)  

 米国東海岸と西海岸の時差は3時間であり、一般的に1時間の時差を調整するのに1週間かかると言われています。サーカディアンリズムや時差、あるいは、大陸の移動がスポーツパフォーマンスに影響を与えるという研究データは数多くあります。→すぐ下の「サーカディアンリズム・時差とアスリートのパフォーマンス」をご参照ください。

大谷選手はこれを睡眠を質的にも量的にも意識的に確保することでカバーしていたと思われます。
 脳研究とともに睡眠研究に従事している私から、この環境に1年間シーズンを通して結果を出してきた大谷選手は驚異的、異次元としか言いようがありません。

2017年10月右肘手術後のリハビリ中のエピソードもありました。 

「夜は午後11時くらいに寝るけど帰ってすぐ18時くらいまで寝てる時もある。2回寝ている」と明かした。(2018年3月8日スポニチ記事)

私の推測ですが、このリハビリ期間中、大谷選手は少なくとも11時間以上寝ていたと思われます。故障した筋・腱の再生・修復は睡眠中に摂取した蛋白質からの筋タンパク合成によって作られるため、この期間の睡眠は極めて重要であったと思われます。

私は個人的に大谷選手のお母さんの「子育て」に関する話を聴いてみたいと思って、お母さんの語録を探していたところ、睡眠に関してこんな記載がありました。 

母の加代子さん「幼稚園や小学校の低学年ぐらいまでだったと思いますけど、学校から帰ってお友達と外に遊びに行く翔平は、夕方に家に帰ってくると体力を全部使い果たしている感じで、ソファで寝てしまうことがよくありました。私が夕飯の支度をしていても、まったく起きない。寝始めると本当に起きなくて。結局、お父さんに寝室まで運んでもらって、そのまま朝まで寝てしまうことが週に何回もあった時期がありました」 「つねっても叩いても起きない」『道ひらく、海わたる~大谷翔平の素顔~』(佐々木亨著・扶桑社文庫)


大谷選手は、睡眠の質を向上させるために寝具にもこだわっています。

 2017年から、睡眠コンディショニングサポート契約を結んでいる寝具メーカー・西川の広報担当者は、「大谷選手の体つきは年々変化しています。できるだけ1年に1度お会いして、枕の測定を行い大谷選手に合ったオーダー枕とマットレスを提供することを心掛けております」

「大谷選手は高校時代から睡眠にこだわりがあったそうで、8年前に日本ハムファイターズに入団した際から本社の商品[エアー]を愛用されています」

「オーダー枕の測定時、専用の測定器を使い後頭部や首の高さを測定し、14カ所の調整ポイントで、枕の高さを合わせていきます。大谷選手の肩幅が広く横を向いて寝た際、肩が痛くなるといった悩みも、この調整で解消できました」  と話している。

西川のホームページでは、以下のような「Q&A」がある。

Q. 大谷翔平選手のコンディショニングの整え方は? 

A.「バランスの良い食事・トレーニング・しっかりとした睡眠をとることです。特に睡眠は僕のコンディショニングに欠かせないものです。アメリカでは遠征も多いため、安定した質の高い睡眠をとることができず、体調を崩してしまう選手もいます。僕は、[エアー]で遠征先でも普段と変わらない睡眠をとれるので、最高のコンディションで試合に臨めています」 

 Q. 睡眠に対するこだわりは? 

A. 「しっかりとした良質な睡眠をとることによって、毎日いいパフォーマンスが出せると思うので、いい睡眠を毎日とることが大事だなと思っています」 

 Q. 西川によるサポートによって生活に何か変化はありましたか? 

A.「[エアー]で本当によく眠れています。[エアー]シリーズに変えて、より良い睡眠をとることができていますし、西川さんのおかげでほんとに毎日いいコンディションで臨めるようになっていると思います」

Q. AiR SXの気に入っているポイントは? 

A. 「気に入っているポイントは優しくカラダにフィットすることと、弾力があり、姿勢をすごくキープしてくれることです。その2点のおかげでカラダの負担も少なく、不安なく安心感を持って、深い眠りもとれるようになりました」 

 Q. お使いの[エアー]のポータブルはいかがですか? 

A.「遠征中に普段と変わらない質の高い睡眠をとるには[エアー]ポータブルは欠かせないものです。日本にいた時より移動が多いので、遠征中のカラダの負担を軽減してくれて、僕にとって欠かせないものです」

Q. お使いのオーダーピローはいかがですか? 

A.「オーダーピローは僕にとって理想の枕です。肩幅が合わなくて、肩が痛くなるのが悩みでした。肩幅の隙間を埋めることで、僕の体型の特徴に合わせた枕を作っていただき、それ以来肩が痛いということは無くなりました」 


 「西川」サイト内の動画↓
 

西川[エアー]大谷選手インタビュー編 

https://www.youtube.com/watch?v=K-r-ZwmBn6k 

 

西川[エアー]大谷翔平選手:オーダーピロー編 

https://www.youtube.com/watch?v=Rw2US4eHvag 

サーカディアンリズム・時差とアスリートのパフォーマンス

 

 米国東海岸と西海岸の時差は3時間であり、一般的に1時間の時差を調整するのに1週間かかると言われています。
サーカディアンリズムや時差がスポーツパフォーマンスに影響を与えるという研究データは多く、

•Kline CE, J Appl Physiol. 2007 (swim)
•Smith RS, Sleep 1997  (NFL)
•Baxter C, Br J Sports Med. 1983  (swim)

•Winget CM, Med Sci Sports Exerc. 1985
•Reilly T, Chronobiol Int. 2007   (soccer)  

スタンフォード大学のSmithらの研究によると、1970年から1994年までの 25シーズンのナショナル・フットボール・リーグ(NFL)において、西海岸チームは、マンデーナイトフットボール(MNF)の試合中、東海岸チームに比べて優位でした。この研究は、25年間に試合開始時刻が午後9時(東部標準時)の西海岸チームと東海岸チームの全試合を対象に、レトロスペクティブなデータ解析を行った結果、西海岸のチームは、東海岸のチームに比べて、1試合あたりの勝率(p < 0.01)と勝点が有意に高く、西海岸のチームは、ラスベガスのオッズ(ポイントスプレッド)で予測されるよりも、有意に(p < 0.01)良い成績を残していました。

•Smith RS, Sleep 1997  (NFL)

時差の影響や移動の疲労度は、選手に大きな負担になります。

・Janse van Rensburg DCC, Br J Sports Med. 2020 
・ Samuels CH, Clin J Sport Med. 2012 
・ Reilly T, Clin Sports Med. 2005 

時差対策

 

時差ぼけは、異なるタイムゾーンに旅行するときに一般的に起こる現象で、体内時計が新しい時間帯に適応するのに時間がかかることが原因です。 

国際試合や国際大会で自分の十分な実力を発揮するには、時差対策が不可欠かつ重要です。

以下の方法で、私が関わってきた選手たちは現地時間にいち早く順応することができています。私が帯同する時にはこの中の薬物療法も行っています。もちろん、ドーピングにならない安全な薬剤を使用します。

1.旅行前に体内時計を調整する: 出発前に徐々に目的地の時間帯に合わせて起床や就寝の時間を調整しましょう。

2.飛行機内での調整: 飛行中は目的地の時間帯に合わせて、就寝や起床のタイミングを調整します。機内食を犠牲にする勇気も必要です。機内の照明やシェードを使って昼夜を模倣しましょう。アイマスクや耳栓で感覚遮断することも眠りを深くすることにつながります。

3.水分補給: 脱水は時差ぼけの症状を悪化させるため、現地に着いたら十分な水分補給を心掛けてください。しかし、飛行機内では水分の取り過ぎはトイレを近くしたり睡眠を浅くしたりするので控えましょう。また、飛行機内ではアルコールやカフェインの摂取を控えましょう。

4.光を利用する: 太陽の光は体内時計をリセットする効果があります。目的地に到着後、日中、できれば午前中に屋外で過ごすようにしてください。

後述する「睡眠相後退症候群の治療」で記している「高照度光照射器」もお勧めです。オリンピックでこれを使用している競技団体もあります。

5.適度な運動: 適度な運動は睡眠の質を高め、体内時計の調整に役立ちます。ただし、寝る直前の激しい運動は避けましょう。

6.ジェットラグアプリの利用: スマートフォンアプリを利用することで、時差ぼけ対策のアドバイスや目的地への調整方法を得ることができます。

7.短期間の睡眠補助薬: メラトニンは極めて有効です。医師と相談の上、睡眠の質を一時的に向上させることができる睡眠導入剤を利用することも検討してみてください。スボレキサント、ラメルテオン、レンボレキサントといった薬剤は時差ぼけ対策に有効であると報告されています。

 *メラトニンに関しては、下記「睡眠相後退症候群の治療」の項目をご参照ください。

これらの対策を実践することで、時差ぼけの影響を最小限に抑えることができます。

睡眠について


 

2016年8月31日に開催された「第1回東千葉メディカルセンター市民公開講座」での私の講演

『たかが睡眠、されど睡眠』

の内容を
NPO法人地域医療を育てる会の藤本晴枝様が、同法人機関紙クローバー78号 に掲載した文章を引用させていただきます。




 

『たかが睡眠、されど睡眠』 

不眠とは
私達は人生の約三分の一を睡眠に費やしていますが、その睡眠に対して関心が低いのも事実。眠りに関する不具合として、
・日中眠気が取れない
・夜、なかなか寝付けない
・夜中に目が覚める
・起きる時刻よりもだいぶ早く目が覚める
などがあります。この四つのうち一つでもあれば不眠と言われています。適切な睡眠時間の長さは、人によって違います。五十代までの人でしたら、ご自分が中学生から大学生ぐらいの頃に、元気に過ごすために必要だった睡眠時間が目安になります。

不眠と健康の深い関係
  日本人の二~三割は不眠と言われていますが、健康とどのような関係があるのでしょうか。今は睡眠と運動、睡眠と心身の健康などいろいろな研究がなされています。その中で主なものをご紹介します。
(1)不眠症の人は太りやすく、糖尿病になりやすい
睡眠時間が長くなると、食欲を抑えるホルモンの分泌量が増え、食欲を増進するホルモンの分泌量が少なくなることがわかってきました。つまり、太りにくくなるのです。また、糖尿病患者には不眠症の人が多いと言われています。そして、不眠症の人は糖尿病を発症しやすいとも言われています。
(2)不眠症の人は高血圧症になりやすい
 
 平均の睡眠時間が五時間以下の人の高血圧発症率は、七~八時間睡眠を取っている人の発症率の倍だという研究結果もあります。我々の研究では、血圧を下げる薬を三種類以上使っても血圧のコントロールができない「難治性高血圧」の人の八割以上は、睡眠障害を有していることがわかりました。また、早朝高血圧の人は後に挙げる睡眠時無呼吸症の可能性があります。

病気の陰に睡眠時無呼吸症?
最近、大きな事故の原因として「睡眠時無呼吸症」という言葉を新聞などで目にした方もいらっしゃるでしょう。かつてあったアメリカのスペースシャトル「チャレンジャー」の事故や、ロシアのチェルノブイリ原発の事故、これらにも睡眠時無呼吸症(以下、「SAS」)が絡んでいると言われているほど、怖い症候群です。自分では特に寝不足だと思っていないのに、日中、一瞬強い眠気に襲われて気づいたら大きな事故になっていた。そんなことがあるのです。
  SASには閉塞型と中枢型があります。ほとんどの人は閉塞型です。眠っているうちに、舌の根元が気道をふさいで窒息状態になるのです。よくあるのですが、大きないびきをかいていた人のいびきが十秒以上止まり、再開する。この、いびきが止まっている時に呼吸が出来なくなっているのなら要注意です。一晩のうちに何度も窒息するのですから、眠りが浅くなり、十分な時間を取っているのに寝た気がしません。そればかりか、いろいろな合併症を起こすようになります。(※1)ですから、一緒に寝ている人は「ああ、うるさいいびきがやっと止まった」と安心せずに「息をしている?」と、その人の呼吸を確かめてあげてください。

SASの治療法
SASの治療には、CPAPという医療機器を使います。眠っている時に呼吸が止まると、機器が自動的に鼻から空気を送って呼吸を助けるので、深く眠れるようになります。この治療をしたことで高血圧が治ったり、糖尿病が治ったりする人が多くいます。金井先生の患者さんの中には、SASが原因で事故を起こし、失職して頭痛や不眠がさらにひどくなり「死にたい」と思うほど重いうつ病になった人がいましたが、SASを治療したところ元気になって、また仕事が出来るようになりました。
  不眠の場合、睡眠薬を処方されることが多いのですが、SASが原因の場合は逆効果です。睡眠薬は体をリラックスさせる働きがあるからです。SASの人は舌の根元が緩んで気道をふさいでしまうので、睡眠薬を飲むほど、よく眠れなくなってしまいます。睡眠薬を使っているのに寝た気がしない等、おかしいなと思ったら東千葉メディカルセンターの総合診療科にご相談ください。

限られた時間で、良い睡眠を得るために
同じ睡眠時間でも、次にあげる工夫をすることで良い睡眠を取ることが出来ます。
〇起きる時刻と寝る時刻を決める(できれば休日も同じ時刻で)
〇朝一番で光を浴びる。明るさの目安は五千ルクス(曇り空)~一万ルクス(晴れた日中の木陰)
〇睡眠時間を確保する
〇夜は寝る時刻の二時間前までに食事を終える(量も控えめに)
〇ぬるめのお風呂でリラックスし、自然に涼しくなったころに寝る(熱いお風呂やサウナは逆効果)
〇寝る前の運動はストレッチがおすすめ(激しい運動は逆効果)
〇寝る一時間前から、脳が興奮するようなことを避ける
(避けましょう!:カフェイン、アルコール、寝床での読書・音楽・スマホを見る・テレビを見る、明かりをつけっぱなしで眠る など)
〇メラトニン(サプリメント)や薬剤も上手に取り入れる
〇寝具にこだわる(高い枕は避ける、など)

スポーツのパフォーマンスにも相当な影響があります。

お勧めのリラックス法に「漸進的筋弛緩法」があります。簡単にできて、全身マッサージより効果があります。(※2)
ほとんどの不眠症の方が、これを寝る前に5分間行うだけで睡眠が改善する効果が報告されています。

まとめ:金井先生から皆さんへのメッセージ
「眠れないと、こころにもからだにも悪い影響を及ぼします。適切な睡眠時間を確保して毎日しっかり眠ることを大事にして、健康的な生活を送ってください」


秋の夜長、ついつい夜更かしをしがちですが、これを機会に自分の睡眠を見直して、眠る時間を大切にしたいと思いました。
(藤本晴枝)

※1 SASの合併症
 
高血圧症 虚血性心疾患 心不全 脳血管障害 糖尿病 脂質異常症 高尿酸血症 不整脈 肺高血圧症 多血症 胃食道逆流 うつ病 交通事故 
 

※2 漸進的筋弛緩法の方法

「漸進的筋弛緩法」と「大阪府」で検索をしても出てきます


スポーツと睡眠

金井貴夫:学生アスリート応援マガジン『アスリート・ビジョン』(2019年春号)


「ドクターに聞いた 大切な試合に臨むためには心にも目を向ける」というテーマで私への取材記事が掲載されました。


 

スポーツにおける「メンタル」と「睡眠」 

心とカラダのコンディショニング術:パフォーマンスに深くかかわる
『スポーツにおける「メンタル」と「睡眠」』というテーマで私の記事が掲載されました。


学生アスリート応援マガジン『アスリート・ビジョン』WEB版(2021年10月14日)


ベストな睡眠をめざして

 私が「睡眠障害」の講演でお話ししている中で、「これさえ行えば良い眠りが得られる」と思われるポイントを挙げてみました。この方法で90%以上の不眠症の方が薬を使わずに眠れています。

•        生活リズムを整え、決まった時間に起床・就寝し、「理想睡眠時間」を確保する(休日や週末も崩さない)
•        朝一番で光にあたる
•        昼寝を15時以降はしない、それ以前でも20分以内に。
•        就寝2時間前は、食べない・激しい運動はしない・ブルーライトをみない
•        寝る直前にマッサージやストレッチをする
•        寝る前に脳の興奮を誘発するものは避ける(カフェイン、アルコール、強い視覚刺激など)
•        呼吸法(特に漸進的筋弛緩法)を日常的に行い、「呼吸」に意識を向ける。
•        寝具にこだわる
•        布団に入ったら光や音を遮断する(どうしてもという人はタイマーでつけ放しは避ける。読書は布団から出て)

以上を試みても不十分な時には、メラトニンや薬剤を使うことも有用です。

睡眠相後退症候群

 

 私の外来には、多くの不登校の児童・生徒が来院します。 

不登校の児童・生徒では、ゲーム使用障害や睡眠相後退候群が「朝起きられない」原因であることが多いです。 

中でも見逃されやすいのが「睡眠相後退症候群」です。
睡眠相後退症候群は、社会的に許容される、あるいは従来の就寝時刻より2時間以上睡眠が遅れる睡眠障害です。簡単にいうと「朝寝坊の宵っ張り」です。

その有病率は、青年および若年成人において最も高く、その割合は研究によって差がありますが、3.3%から16%と報告されており、15歳頃までに発症している方がほとんどといわれています。
中高年の有病率は若年層よりも低いと考えられており、年を経るごとに改善していくと考えられています。

私が睡眠障害のレクチャや講演(ほとんど医師向け)で「睡眠相後退症候群」について話をすると、「当事者」が会の後に個別相談に来られることがこれまで多々ありました。医師にも多く、個人的には有能な方に多い印象があります。

睡眠相後退症候群の原因は詳しくはわかっていませんが、遺伝性であり、思春期に体内時計に起こる正常なシフトが原因である可能性があります。 

 

睡眠相後退症候群では、学生時代は、朝寝坊や遅刻も大目に見てもらいやすいですが、社会に出るとそれらが許されず、生活に破綻をきたしてしまう人が少なからずいます。

 この疾患が正しく治療されないと、二次性にうつ病やパニック障害なを含む不安症など様々な精神・行動の障害をきたしてしまう可能性があり、私がこれまで診断した患者さんの中には、神経発達症群やうつ病、双極障害、パーソナリティ障害、統合失調症などと診断されていた方もいました。 


しかし、適切に診断・治療・生活指導をすると劇的に人生が変わっていく人が多いのもこの疾患の特徴です。 

睡眠相後退症候群の治療 に関しては、次の項目で記します。


小中学生の頃から「学校や仕事に行けない」「朝起きれない」「起床時頭痛や腹痛などで体調がすぐれない」といった症状でお悩みの方は、睡眠相後退症候群の可能性を視野に入れて専門医を受診することを検討してください。

ただし、ゲーム使用障害(ゲーム依存)やスマホ依存の方はまずそれらを治してください。ゲーム依存やスマホ依存の方がいましたら、「東京医科歯科大学病院のネット依存外来」を受診してみてください。 同外来は中学生以上が対象ですが、親と子どもそれぞれに治療用アプリ(KDDIと共同開発中)などもあり、長期治療成績も極めて良好です。 

睡眠相後退症候群の治療

~メラトニンと高照度光照射 ~

 

睡眠相後退症候群の治療は、メラトニンと高照度光照射の2本柱です。

高照度光照射器

高照度光照射器 で私のイチオシは、グラス型のルーチェグラス (写真左)

です。忙しい朝の時間帯に移動しならでも使えるのが良いです。値段も手頃です。
ちなみにこのルーチェグラスが発売される2021年頃以前まで私が推していたのは、「ブライトライトME」(写真右)
です。これは、日本睡眠学会で推奨されているものです。 

メラトニン 

メラトニンは、小児用のメラトベル®という医薬品はありますが、 成人では日本では医師が処方できないため、海外から直接ネットで入手することをお勧めします。
2017年にJ Clin Sleep Med. から出された論文で「今回調べた31のメラトニン製品のうち71%の製品が、ラベルに示されている含有量の10%以内の値を満たしていなかった。更に26%の製品には、セロトニンが含有されていた」(J Clin Sleep Med. 2017 Feb 15;13(2):275-281)とあり、ゾッとしたので無責任に患者さんに購入させるのはいけないと思い、色々調べてみました。 

米国睡眠学会でのUSP verified productsなら安心とのことで、USP verified productsのリストに載っているメラトニンは、
Melatonin 3 mg Tablets – NatureMade
Melatonin 5 mg Tablets – NatureMade
Melatonin 5 mg Fast Dissolve Tablets – Natrol
の3つだけでした。
NatureMade製品は私が知る限り英語のサイトで購入しないといけないので、私が患者さんに勧めるときは、iHerb というサイトから、「Natrol 3mg 60錠」(写真)
と具体的に購入の仕方を教えて購入してもらっています。 
私の経験上、日本人では3㎎で十分な方が多く、5㎎では持ち越し効果がある方が結構います。 これを夕方から寝る前に服用するとよいでしょう。