呼吸法で自律神経をコントロールする

本番で実力が発揮できる状況を医学的に説明すると、緊張しすぎずリラックスしすぎず適度な緊張感を維持した状態ということになります。

この状態は平常心、無の状態、フロー、ゾーンとも呼び、カラダの調子を整える働きをコントロールする自律神経と密接に関わっています。

自律神経には交感神経と副交感神経があり、この2つの神経のバランスがとれていると、適度な緊張感を維持することができるのです。

リラックスしているときの脳波は、12〜13Hzのα波が出ており、ゾーンの状態に入っているときには、それよりも少し周波数の速い、12〜15HzのSMR(Sensory Motor Rhythm)波が出ています。メンタルトレーニングによってこれらをコントロールすることができるのです。





腹式呼吸

(丹田呼吸)


腹式呼吸法は、ストレスや不安を軽減し、リラックスし、集中力を高めるのに役立ちます。 また、 心身の調和をもたらすことにも役立ち、より多くの酸素を体に取り込むことができ、自律神経をコントロールすることができます。心拍数を減少させ、血圧を下げることすら可能となります。 

腹式呼吸は、 丹田(たんでん)呼吸とも呼ばれ、中国の伝統医学や気功、太極拳などの東洋の健康法や武術において重要な呼吸法でもあります。

『鬼滅の刃』で登場する「鬼殺隊」の剣士たちは、独自の呼吸法によって「全集中」の状態を得て能力を高め、鬼と戦っています。「全集中」するための具体的な 呼吸法については記載されていませんが、「始まりの呼吸」と呼ばれる、全ての呼吸のもととなる「日の呼吸」がこの腹式呼吸に相当するのかもしれません。 

腹式呼吸は、以下の手順で行います(下のイラスト参照)。

1.背筋を伸ばしてリラックスした姿勢で座るか横になります。

2.ゆっくりと鼻から息を吸い込みます。お腹の「丹田」(おへその下約3〜4指の位置にあるツボ)が膨らむのを感じます。

3.この「丹田」を元に戻しながら、ゆっくりと口から息を吐きます。

この呼吸を数分間繰り返します。

リラックスしたい時は、このように口から吐きます。息を吐きながら力が抜けていくイメージをもつといいでしょう。

エネルギーをため込みたいときは鼻から吐きます。

「丹田」のイメージが難しい時は、イラストのように風船をイメージして、息を吐き出すときには風船がしぼんでいくイメージ、息を吸い込むときには風船が膨らむイメージをもつことをお勧めします。

風船に色を付けるとより集中でき、雑念が湧きにくくなります。さらに、瞑想状態に入りやすくなります。

最初は、4秒かけて息を吸い込み、息を吸い切ったところで2秒間止め、6秒かけて息を吐き出します。 

肺活量が大きな方は、吸気時間(息を吸う時間)を5秒~6秒まで、呼気時間(吐き出す時間)を8秒~10秒まで徐々に増やして調整してください。息を止める時間はなくてもいいですし、最大7秒くらいまで止めた方がいいという方もいます。正しい吸気時間と呼気時間というのもないのですが、だいたい、

吸気時間:呼気時間=2:3~4

を目安にするのがいいとされています。この時間やリズムには個人差がありますので、どれが正しいというものはありません。無理なく心地よく感じるリズムで行うことがコツです。

暇さえあればやって欲しいのが、この腹式呼吸です。日々行うことで、ここ一番での効果が高まります。 

イラスト引用元:金井貴夫:ドクターに聞いた大切な試合に臨むためには心にも目を向ける.学生アスリート応援マガジン『アスリート・ビジョン』 2019年11月5日 WEB版:https://ath-v.com/mental-201910/

腹圧呼吸

腹圧呼吸は、パワーやエネルギー水準を上げる呼吸です。普段から腹式呼吸をやっていれば、緊張をパワーに変換することも可能です。

吸気時と2秒間の息止めまでは、腹式呼吸と同じで、呼気時に風船をしぼませずに膨張したままで維持します。この時に、視線を水平線よりも上方に向けて遠くの一点に焦点を合わせると「集中」のスイッチが入ります。試合や競技の前や試合中のパフフォーマンス直前に(セットの状態から投げる・打つ・蹴るなどの動作やスタートラインについたときに)行うと効果を実感します。

この腹圧呼吸は、腹腔内圧を相当上昇させる必要があるので、主呼吸筋かつ体幹(コア)の筋肉である「横隔膜」を鍛えることにもつながります。

横隔膜が「筋肉」であることは意外に知られていませんが、横隔膜を鍛えることは他の体幹トレーニングと同様に極めて重要です。

横隔膜を呼吸筋トレーニング用デバイスやピラティスによって鍛錬することはパフォーマンスの上昇の可能性があり、何人かのトップアスリートにやっていただいた感触では極めて有効です。 

是非試してみてください。

丹田

「丹田(たんでん)」は、人間の体内にある「エネルギーセンター」または「生命力の源」を指します。

上の「腹式呼吸」の項では、便宜的に丹田の位置を「おへその下約3〜4指の位置」と記しましたが、厳密にいうと丹田には3つの位置があり、通常呼吸法でいう「丹田」は「下丹田」を指します。

下丹田は呼吸やエネルギーの集中、そして内なる力や安定感をつかさどるとされています。

全ての運動動作において、すなわち、スポーツでも音楽の演奏や歌唱でもあらゆるパフォーマンスにおいて、丹田呼吸をしながら意識と呼吸を下丹田に集中して吸気時にはエネルギーを集め、呼気時にはエネルギーを放出するイメージで行うと体が自然に動き、力を十分に発揮しやすくなります。

最大限の筋出力を行う際には、丹田に力を込めることが必要です。

イップスやチョーキングを起こす選手や音楽家の共通点として、丹田に力が入っていないこと、首周りの筋肉が緊張していることが挙げられます。これは、イップス外来で気付いた個人的な見解ではありますが、この2点を改善するだけで、イップスやチョーキングが改善する方は多いです。 

丹田から手(肩甲骨を介して)や足(骨盤を介して)が生えたイメージで呼吸とリンクさせて正しい身体動作を行うとスムーズかつ精緻な運動を行いやすくなります。

首周りの筋緊張を取り除くのには、アレクサンダーテクニークが有効だと思います。

アレクサンダーテクニークとは、自己認識と身体使用の改善を目指す技法で、オーストラリアの俳優フレデリック・マティアス・アレクサンダーによって19世紀末に開発されました。アレクサンダーテクニークの主な目的は、不必要な身体的および精神的な緊張を減らし、自由で簡単な動きを可能にすることです。これにより、全体的なパフォーマンスと身体の機能が向上し、痛みや不快感が軽減されるとされています。

このテクニークは、ポジション、バランス、そして動きの自覚を高めることを通じて、個々の身体の使用法を改善することを目指します。具体的には、日常生活の動作(座る、立つ、歩くなど)や特定のスキル(音楽の演奏、スポーツ、演技など)を通じて、自己認識と動作の調整を学びます。 

アレクサンダーテクニークに関しては、資格のある教師(日本アレクサンダーテクニーク協会のサイトに教師一覧あり)から直接指導を受けることをお勧めしますが、Youtubeなどの動画解説を参考にするだけでもヒントになると思います。